第56話
その瞬間、甘夏の爽やかな甘さと、少し遅れてバターの香ばしい香りが口の中いっぱいに広がって――
「……!」
あまりの美味しさに、舞の大きな目が更に大きく見開かれた。
舞より先に口の中のものをごくんと飲み込んだ友季が、その表情を見てニヤリと笑う。
「美味いか?」
まだ口の中がマドレーヌでいっぱいの舞は、
「……」
口で話せない代わりに、友季の目を真っ直ぐに見つめて、うんうんと首を縦に振った。
「そうか」
友季は満足そうに頷くと、またいつものように事務室の奥へと引っ込んでしまった。
そんな、
「……」
「……」
上田と木村は目を点にして固まった。
一番離れた場所にあるオーブンの前にいた山田が、
「……今のって、良くない……よな?」
自分が舞の手を掴んで離さなかった過去があるのを棚に上げて言いながら、その近くでスポンジケーキの仕込みをしていた男性社員の方を見る。
「……松野さんって、彼女いたよな?」
基本的にいつも無口な
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