第55話

(この不良品って、後で捨てちゃうのかなぁ?)



黙々と作業をしながら、そんなことを考えていると……



「今日のロス(廃棄品)は意外と少ないな」



舞のすぐ後ろからそんな声がかかり、



「これで少ない方なんですか?」



舞は首だけで後ろに立っていた友季を振り返った。



舞からすると、たった1つでも処分されてしまうのは許し難いのだが。



これらを平気で処分すると言うのだから、友季なんか勿体ないオバケに食われてしまえばいいのに、なんて思ってしまう。



「いつもはこれの倍くらい出るからな」



友季が、舞のよけた不良品マドレーヌを1つ、手に取った。



手で半分に割って、中心部の火の通り具合や生地のキメの細さなどを確認して――



半分のうちの片方を、ポイッと自分の口に放り込んだ。



「あ」



自分だけずるい! と思った舞の口元に、



「ん」



まだ口をもぐもぐと動かしている友季が、残りの半分を差し出してきた。



手で受け取ろうと思った舞ではあったが、自分はまだラッピング作業中。



両手は塞がったままだった。



「……」



躊躇ためらったように固まる舞の唇に、マドレーヌが軽く触れる。



たったそれだけのことで、ずっと我慢していた舞の欲求は爆発してしまい――



――ぱくり



恥ずかしいという感情は最早捨て去り、目の前のマドレーヌに食らいついた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る