第49話

「あの時のクッキー、もう1回食べたいなぁ……」



自分の感情にも、直人の表情の変化にも気付いていない舞は、そんなことを独り言のように呟いて――



「……え? 直人……?」



突然席を立って舞の目の前まで迫ってきた直人に、驚いて目を見開いた。



「……俺は、舞やシェフみたいにお菓子は上手く作れないけど」



直人が右手で、舞の左の手首をぎゅっと掴む。



「……舞に美味しいって思ってもらえる料理を、毎日作るから」



緊張で震えそうになる声を、必死で抑える。



「俺が調理師になって、いつか自分で店を持てたら……俺の店のデザート担当として、一緒に働いてくれない?」



今はまだ“好き”とは言えない直人なりの、精一杯のプロポーズだった。



「直人の作ったご飯が毎日食べられるっていうのは、すっごい魅力だね」



直人の意図に全く気付いていない舞は、そんな食い意地を張った発言をしながら、ふわりと柔らかく笑った。



「じゃあ、お店持てたらすぐに声かけてね。直人が呼んでくれたら、今の店なんて辞めて、すぐに直人の所に行くから」



“すぐに直人の所に行く”



舞のそんな言葉に、



「……っ」



直人の胸はキュンと切なく締め付けられた。



舞を好きだと思う気持ちが、どんどんと加速していく。



「……あの、舞……実は俺、ずっと前から――」

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