第48話

「1回しか会ったことないから、名前とかどこの誰なのかも知らないんだけど……」



「……」



舞が、得体の知れない人物を相手に好きという感情を抱いていたという事実に、直人はショックで黙り込んだ。



「私が小一で向こうが高校生だったから、かなり年上の人だよね」



しかも、舞はどうやら年上がタイプらしい。



「……」



そんな事実にもショックを受け、直人の箸は完全に止まってしまった。



それでも、



「……その人と、何があったの?」



先を促さずにはいられなかった。



「道端で転んで泣いてたところを助けてもらって」



直人が泣きそうな顔をしていることに気付いていない舞は、昔の記憶を思い出してふわりと柔らかく微笑む。



「傷の手当てをしてくれて、その後、手作りのクッキーも食べさせてくれたの」



「……手作り?」



男子高校生が手作りのクッキーを持ち歩いているということに、直人は違和感を感じた。



「パティシエ目指してるって言ってたけど、あの時のクッキーが本当に美味しくて」



(――もしかして、舞は……)



就職活動をしながら、パティシエとして働いているかもしれない彼を探していたのではないか……と、直人は思った。



だって昔の記憶を語る舞の表情は、直人が今までに見たことがないような、恋する乙女の顔をしているから。



舞は今も無意識のうちに、心のどこかではその彼を想い続けているのだ。

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