第46話

「仕事で何か辛いことでもあったの?」



ケーキ箱の蓋を閉じて、舞の方へとそっと歩み寄る。



「……シェフの考えてることが、よく分からないだけ」



舞は、思ったままをぽつりと零した。



「……そう思うってことは、そのシェフのこと、そんなに知りたいの?」



直人は、思わずムッとする。



舞の口から、他の男の話題など聞きたくはなかった。



けれど、そんな直人の心境にまるで気が付いていない舞は、



「シェフの人間性には、興味ないから」



何でもないことのようにさらりと答え、



「そっか……」



ムッとするのをやめた直人は、舞にバレないように、小さく安堵の溜息をついた。



「とりあえずさ、ご飯にしよ。今日は、ねぎ塩豚カルビ丼温玉キムチ添えを作ったから!」



気を取り直すように言った直人だったが、



「えっ!? 私、明日も仕事だから匂いの強いのはちょっと……」



舞は慌てて抗議した。



「いいじゃん、別に。スタミナもつくしさぁ!」



朝と夜の食事を直人に作ってもらっている身分としては、文句を言ってはいけないのかもしれないが、流石にこれは……



「皆に、この子クサイとか思われるのは辛い……」



項垂れる舞を見て、



(変な虫を追い払うには、やっぱりキムチが大事だよね)



直人は心の中でニヤリとほくそ笑んだ。

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