第45話

一方、無事に帰宅した舞は、



「ただいま」



緊張でケーキ箱を抱える手が震えたが、それでも平静を装って玄関先から声をかけた。



直後、ドタバタと慌ただしい足音が聞こえ、



「舞!」



緊張した面持ちの直人が、玄関まで走ってきた。



「今日は帰ってきてくれないかと思った……」



はぁーっと安堵の溜息を大きくついた直人に、



「ここに帰らなかったら、私寝るとこないじゃん」



舞は呆れたように笑った。



「シェフにお土産もらったから、一緒に食べよ」



未だに情けない顔をしている直人に、ケーキ箱を差し出した。



しかし、直人はそのケーキ箱を受け取ろうとはせずに、渋い顔をする。



「シェフって、あのイケメンの……?」



「うん、そのシェフ。でも、そのケーキの生地を焼いたのは私」



舞のその言葉を聞いて、



「えっ!」



直人は嬉しそうにケーキ箱を受け取った。



2人一緒にリビングに入ると、舞は鞄を置くために、更に奥の自室に向かった。



直人はテーブルの上でケーキ箱を開け、



「あっ、ミルクレープだ」



幼い子供のように目をキラキラさせた。



「ここのミルクレープ、本当に美味しいから」



リビングに戻ってきた舞はそう答えながら、今日最後に友季と交わしたやり取りを思い出して、



「……」



僅かにだが、表情を曇らせた。



「舞……?」



その変化に、舞のことが好きな直人が、気付かないわけがない。

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