第44話

「あんな若くて可愛い部下相手に二股かけるなんて、俺は反対ですからね」



友季の舞に対する接し方は、贔屓ひいきするなんてレベルのものではないことに、木村は気が付いていた。



友季とはまだ数年の付き合いだが、それなりに信頼関係は築けていると自負している。



友季は自分よりも年下ではあるが、パティシエとして尊敬しているからこそ、今までこうして友季の下で働いてきたのだ。



そんな誇れる上司に、クズのような行いはして欲しくない。



友季を本気で心配しているからこその木村の訴えに、



「……何の話?」



友季は、そんな短い一言で一蹴いっしゅうした。



その目は、木村が見たこともない程に冷たく冷え切っていて――



「……!」



目が合った瞬間、木村の背筋をゾクッと悪寒が走った。



「俺と鈴原が、って?」



「……」



友季の質問に、木村は恐怖で一切の反応を示せない。



「……10歳も離れてるんだ、お互いに対象外だろ」



「……え……」



今まで、恋愛に関する話題には一切何も答えなかった友季が、初めて自分の考えを話してくれた。



それだけでも十分に驚かされたのに、



「……」



悲しそうにも寂しそうにも見えるその表情に、木村は更に驚かされて、もう何も言えなかった。

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