第43話

「来週の夜なら、私はいつでも空いてますので皆さんの予定に合わせます。では、私はこれで失礼します」



舞は、呆気に取られている友季に頭を下げると、



「……あ。ケーキ、ありがとうございます」



もう一度、今度はお礼のために頭を下げて、厨房の裏口から出ていってしまった。



まだ制服姿のままの友季が厨房に1人ぽつんと残され、



「……俺も、そろそろ帰っていいっすか?」



気まずくて更衣室から出るに出られなかった男性社員の木村きむらが、恐る恐る友季に声をかけた。



「木村さん……今のやり取り、全部聞いてた?」



友季はゆっくりと首だけで振り返って木村を見る。



「いや、あの……聞くつもりはなかったんすけど、その……不可抗力っす」



まるで拷問にでもかけられている気分になった木村は、あまりの気まずさに俯いた。



「何かさぁ……鈴原って、変わってるよな」



友季は独り言のように呟いた。



今まで入ってきた新入社員の女の子たちとは、明らかに何かが違う。



それは木村も近くで見ていてはっきりと感じ取っていたので、



「いい子が来たなぁって思うっす」



本心からそう答えた。



だが、木村には1つ気になることがある。



「松野シェフ……長く付き合ってる女性がいるんすよね?」



「……」



この手の質問には、友季はいつも否定も肯定も一切しない。



予想通りの反応を示した友季に、木村は半ばヤケクソで口を開く。

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