第37話

悲しそうな表情でケーキを見つめる舞に、



「……」



友季はどうすればいいのか分からず、背中に嫌な汗が伝っていくのを感じていた。



舞は確か、友季のことはともかく、友季の作るお菓子が大好きだと言ってくれた。



先程だって、友季がケーキを仕上げていく様子を、舞がキラキラした眼差しで見てくれていたのを感じていたのに。



なのに、突然のこの悲しそうな表情は一体何に対してなのか。



店の方にケーキを運ぶ舞の背中を見送りながら、



「……上田さん」



友季は、現場のリーダーを任せている上田を、こっそりと呼んだ。



音もなく静かに友季の傍に移動してきた上田に、



「……俺、今何か変なことした? 言ったりした?」



こっそりと訊ねた。



「いいえ……シェフのことは関係ないのではないかと」



舞と同じ年頃の娘を3人も育てながらも正社員としてこの店で働いている上田は、目をギラリと光らせた。



「ですので、あまり深く首を突っ込むのはオススメ出来ません」



「えっ……なんで?」



「セクハラだとか、プライバシーの侵害だとか言われても知りませんよ」



「……」



部下の心配も安易に出来ないとは、なんと世知辛い世の中なのか。



そう思った友季は、黙ってしまった。

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