第34話
一通りを見ていた友季は、
「まぁ、大丈夫そ――」
大丈夫そうだな、と言いかけて、
「……大丈夫か?」
舞があまりにも険しい表情をしているのを見て、言い直した。
「大丈夫です」
即答した舞は、両手の指先を痛そうに押さえている。
本人が大丈夫だと言うので、友季はそれ以上何も言えず、
「……じゃあ、その生地全部焼いといて」
そう指示する他なかった。
けれど、辛そうな顔をしながらも文句も言わずに黙々と仕事をこなす舞を、友季は何故だか放ってはおけず――
その場にあった一番小さいサイズのボウルに、製氷機から取り出した氷を適当に入れて、IHのすぐ傍にそれを置いた。
「熱かったら、これで手冷やしな」
「えっ……ありがとうございます」
おっかなびっくりな表情で見上げてくる舞に、友季は何だか気恥ずかしくなり、
「ん」
素っ気なく頷いて、また事務室へと引っ込んだ。
2人の様子の一部始終を遠巻きに見ていた他の社員たちは、
「松野シェフ……一体どうした?」
「俺が熱くて出来なかった時は、氷の用意なんてしてくれなかったぞ」
「優しい一面見せられても、何か気持ち悪い……」
「何か変なものでも拾い食いしたのかな?」
そんなことをヒソヒソと話し合っていた。
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