第18話

「え……着替えたのに、まだすげー苺の匂いしてるぞ。しかも、カレーが負けてる」



舞の前にカレーライスの載った皿を置いた直人は、舞にすっと鼻を寄せた。



「嘘!? そんなに!?」



慌てる舞の右手の親指には絆創膏が貼られていて、それを見た直人は、



「……何? 苺のスライスばっかりして手でも切ったの?」



舞の右手を指差しながら眉間に皺を寄せた。



「……うん、まぁ、そんなとこ」



本当は、スライスすらもさせてもらえなかったけど。



けれど、そんなことをわざわざ直人に言う必要はないので、舞は適当に頷いた。



直人は盛大に溜息をつくと、



「舞も一応は女の子なんだから、あんまり傷とか作るなよ」



身に付けていたエプロンを外しながら、舞の向かいの席に腰を下ろす。



「こういう傷とか、火傷の痕ってパティシエにとっては勲章みたいなものなんだよ」



年下の学生に注意をされた舞は、下唇を尖らせながらそんなことを言い返した。



「勲章ねぇ……」



相変わらず呆れた眼差しを舞に向けながら、直人はスプーンですくったカレーを口に運ぶ。



柔らかく煮込まれた牛肉が口の中でホロホロと解けていくこのビーフカレーは、とてつもなく美味で、



「うん。俺ってマジ天才」



直人は自画自賛した。

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