第16話

「しばらくは、って……いつかは辞める気なんだな」



友季の目が、スッと細められる。



それを見た他のスタッフたちは、



「……」



とばっちりを食らいたくはないので、こちらを一切見ずに、自分たちの仕事に集中していた。



「オーナーの技術を盗めたら辞めます」



「……ほぉーう?」



2人のやり取りを聞きながら、



(もうやめてくれ!)



(世間知らずにも程があるだろ!)



他のスタッフたちは生きた心地がしなかった。



「鈴原」



友季の一段と低い声に、



「「……!」」



舞以外のスタッフがびくりと体を震わせる。



友季が何を言い出すのだろうとスタッフたちが冷や汗を流しながら静観している中で、



「俺のことは、オーナーじゃなくてシェフと呼べ」



友季が発したのはそんな一言。



「はい、シェフ!」



特に何かを気にした様子を見せない舞は、普通に返事を返していた。



「よし。じゃあ、これ食ったら、また苺を頼む」



友季は言いながら、苺ショートをカットした時に出た切れ端を一切れ、舞に差し出した。



「「!?」」



スタッフ皆が驚いて舞の方を振り返る中、友季からもらったそれを一口でぱくりと食べた舞は、



「美味しーい!」



幸せそうな笑顔を浮かべた。



それを見た友季は、



「そうか」



心なしか、嬉しそうに見えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る