第20話

俺が、美姫の病気に対して最初に感じたこと――他の患者の症状とは何かが違う、ということは、今でもまだ感じている。



というか、それはもうほとんど確信している。



発症の当初こそは、忘れ物などがひどかったものの、それはアリセプトの服用により、今ではほとんど抑えられている。



他の患者と美姫の明らかな相違点というのが――



日常生活においての記憶障害――例えば、料理の手順を間違えたりとか、よく見知った道で迷子になったりとか、そういった障害は、全くない。



薬の服用だって、俺が監視していなくても、他の患者みたいに飲んだか飲んでないかで悩むこともしていない。



一人でだって生活していける。



なのに、自分の周りの人間のことに対しての記憶障害があまりにもひどすぎるのだ。



美姫は、それほどまでに、周りの人間への不信感や恐怖心が強いのかもしれない。



こんなことになるくらいだったら、あの時、イギリスになんか行くんじゃなかった。



親戚の世話になってでも、日本に残っているべきだった。



後悔先に立たずだなんて、本当に昔の人は鋭すぎるよな。

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