第15話

そもそも、逆行性健忘症というのは、ある特定の経験より前の記憶に障害が現れることを言う。



つまり、自分のことや、家族、友人、恋人のことが分からなくなるのだという。



それに対して、順行性健忘症は、ある特定の経験より後の記憶に障害が現れ、学習することが出来なくなるのだそうだ。



――という内容の説明を医師から受けたこと以外に、病院での俺の記憶はない。



……俺の方が、記憶喪失になってしまいそうだ。



美姫の物忘れが減ってきていたから、アリセプトは十分に効いているものだと思い込んでいた。



けれど、実際にはそうではなかった。



……このまま、俺たちはどうなってしまうんだろう……?



それが起こったのは、そう考え始めた矢先のことだった。

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