第14話

「大変申し上げにくいのですが、逆行性健忘症の悪化が見られ……しかも、順行性じゅんこうせい健忘症も併発しています」



「……は?」



俺と美姫は、いつもの薬を処方してもらうため、いつもの病院を訪れていた。



担当医に、



「最近、気になることはありますか?」



と尋ねられ、でもそれは毎回お決まりの質問で……



いつもなら、



「ありません」



と即答する美姫が、



「あの、実は……」



と、俺ですら知らされていなかった症状を告白し出したのだ。



その内容というのが、



自分が、一体誰に育てられたのか、親の顔が全く思い出せないということ。



自分がどこで育ったのかということ。



そして――



勤めている保育園で、担任を任されて3ヶ月以上が経つというのに、



その担当組の子どもたちの顔と名前が、未だに覚えられていないということ。

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