第9話

「ねぇ。私、そんなに物忘れひどかった?」



病院からの帰り道、彼女がぽつりと聞いてきた。



その時、彼女には内緒で、医師から告げられた言葉を思い出す。



“現在の医学では、アルツハイマーに対する特効薬や治療法はまだ開発されていません”



“アルツハイマーの初期段階では、本人にも物忘れの自覚はありますが――……”



“進行すると、自覚すらなくなってしまいます。



彼女の場合、もしかすると、初期と呼べる時期から逸してしまっているかもしれません”



“その場合、アリセプトの効果は期待できません”



効果が期待できない――……



それは、治療法の皆無を意味する。



そうなれば、美姫はいずれ、俺のことすらも――……

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