第4話

「念のため、アリセプトを処方し、しばらく様子を見てみましょう」



本気で他人事ひとごとだと思っているんだろうか。



医師の淡々とした口調は止まない。



俺は、力なく俺に寄りかかる美姫の肩を右手でそっと抱き寄せ、空いた左手の拳を膝の上で震わせることしか出来なかった。



「治る見込みはあるんですか……?」



もう言葉を何も発しなくなった美姫の代わりに、俺が静かに問いかけた。



しかし、医師は首を横に振る。



「アリセプトは、アルツハイマー病の進行を遅らせることしか出来ません。北条さんの場合は、まだアルツハイマーと断定は出来ませんし、仮にアルツハイマーだったとしても、その効果が現れる確率はごく僅かです」



……それでも、何もしないよりはずっといい。



少しでも可能性があるのなら、それに賭けてみるしかない。



俺と美姫は、黙って頷く以外に、術はなかった。

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