葛藤

第3話

逆行性健忘症ぎゃっこうせいけんぼうしょうです」



薄暗い診察室の中、一枚のレントゲン写真を前に、白髪混じりの脳外科医が言い放った。



そのレントゲン写真は、あらゆる角度から撮影した脳内の写真が隙間なく並べられ、一枚に納まっている。



「これは、俗に言う“記憶喪失”のことですが……」



彼は医師の業務として、手にしたボールペンでその写真の細部を指し示し、淡々と詳細を説明していく。



「原因としては、若年性アルツハイマー型認知症の可能性もありますが……このレントゲン写真からは脳内に異常は見受けられないので、はっきりとした原因は分かりません」



まるで、何かのドラマのワンシーンのようだと感じ、俺――藤原ふじわら 朔人さくひとは、苛立ちすら覚えるほど。



「そんな……」



そう呟き、崩れるようにして俺の肩に寄りかかってきた彼女の名は、北条ほうじょう 美姫みき



彼女とは、つい一週間前に婚約したばかりだというのに。



これから、この俺が、彼女を幸せにしてやろうと思っていたのに……



俺の愛しい彼女の中には、俺の力ではどうすることも出来ないほどの、恐ろしい悪魔が巣くっていたんだ――……

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