第4話 ー 5

「……どうだった? ここでの“現実”」

「……うっせぇな。殺すぞ」

「残念、僕も死んでいるんだ♪ “僕の学校”には“死”という概念も無いし」



 発言ひとつひとつにイライラする。


 眉間に皺が寄り、険しい表情になっているであろう。そんな俺をニヤッと微笑みながら、またどこかへ歩き始めた。




 その後男は、校舎内と“ホーム”と呼ばれる生徒の宿舎を俺に案内してくれた。この制服を着ていればご飯やおやつは食べ放題というシステムはなかなかだ、なんて思いつつ、死んでもなお食事という概念があることに笑いが出そうだった。


 だけど実際、確かに空腹感はある。その感覚がまた不思議。



 そしてこの世界には通貨が無いみたい。

 必要なら物は全て支給されるとのことだった。



「ってことで、以上だね。本当は“記憶の構築“をする時に“この学校の配置などの情報を埋め込む”んだけどね。君には通用しなかったから教えてあげたよ」

「……お前がさっきから言う、“記憶の構築”って何だよ」

「え、知りたい?」

「……」



 男は「ん-……」と言いながらわざとらしく首を傾げる。

 その様子にまた苛立ちを覚えつつ、感情は抑え込んだ。



「君はまだ来たばかりだから、また今度教えてあげるよ」

「はぁ?」

「どうせ“卒業の日を迎える”までは、ここから出られないんだから。どうせなら楽しみなよ」

「……“卒業の日”って、何だよ」

「それもまた今度ね」



 そう言い残して、男は職員室に戻って行った。



「……」



 取り残された俺。

 というか施設の案内はしてもらったけれど、大体この世界での時間ってどういう風に進むの?


 始業は何時? 授業時間は? 朝昼晩の概念ってあるの?


 ……これらも、本当なら“構築”されるんだろうな。

 その意味不明な単語に笑いながら、呆然と立ち尽くして空を見上げた。



 ピンク色の空に、水色の雲。


 頭の悪そうな世界観に眩暈がする。


 事故に遭って、死んで。

 訳の分からない世界に来て。

 そこで再会した彼女は、俺の存在すら記憶の中に無くて。



「今頃、俺の体は……荼毘だびされているのかな」



 なんて、元いた世界に思いをせたりして。



 緑色の訳の分からない鳥を眺めながら、涙が一筋零れた。

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