第4話 ー 3
「ようこそ、
「……」
「ようこそ! 今日の入学生?」
「うっせぇ」
「お?」
目の前にはパステルカラーの風景に良く映える、真っ白な校舎。ピンク色の空に、水色の雲。紫色の山。
一瞬で俺は理解した。
俺、死んだんだな。
死んだ後、精神はどうなるのかなんて気にしたことも無かったけれど。この感じ……ここは良く聞く『天国』でも『地獄』でも無さそう。
目の前に立っている、何だが胡散臭さそうな男。
灰色のスーツに黄色い目。
一目見ただけでも分かる。ヤバい奴だ。
しかし、ここは……どこだ。
ひよちゃんは……どこにいる。
「えー……白崎蓮斗くん」
「……何で俺の名前を知ってんの?」
「ここの“責任者”だから! さて、君が答えてくれないから続きを言うけど、君は今日からここの1,003人目の生徒だ! 入学おめでとう!」
「…生徒って何。俺、死んだんだろ? 俗に言う『あの世』にも学校があるって言うの?」
「………」
胡散臭さそうな男は目を見開き、酷く驚いたような表情をした。そして小さく頭を抱え、溜息をつく。
「……え、君。“自分が死んだことを理解してる”ってこと?」
「意味分かんね。自分が死んだことくらい理解してるだろ」
「……“死んだことを理解している人”は“こちら”には呼べないようになっているんだけど。どういうこと?」
「……」
どういうことって……。それはこっちの台詞だ。
大体何だよ、この頭悪そうな世界観。
もう少しまともな色合いにすれば良いのに。
ピンク色の空をバックに飛び交う、カラスみたいな形をした緑色の鳥。何だよ、緑の鳥って。
理解出来ない非現実感に、より一層死を実感する。
「……取り敢えず、うちの制服に着替える?」
「……何でそんなに不満そうなんだよ」
「だって、“死んだことを理解している人”は、“僕の学校”には不要だから。だけど、帰すこともできない」
「…………」
胡散臭そうな男は、クルっと俺の方に背中を向けて歩き始める。
真っ白の校舎に向かってゆっくりと歩く男の背後を、俺も一歩下がってついて行った。
校舎に近付くにつれて増える生徒。淡い黄色の……何ともセンスの無い制服を着た生徒たちは、みんな楽しそうに過ごしていた。
男子も、女子も。
みんなが楽しそう。
そんな異様な光景が物凄く不気味だ。
「何で死んでるっていうのに。みんな楽しそうなんだよ」
「……白崎くん」
俺の名前を呼んで振り返った男。
その男は鋭い目つきでこちらを睨みつけてきた。
しかも黄色い目が光り輝いていて、奇妙という言葉では片付けられないくらいの恐ろしさを感じる。
「僕の可愛い生徒の前で“死んでいる”なんて絶対言わないこと」
「何で」
「あの子たちは“自分が死んでいる”ということを知らないから。…だから、“死んでいると理解”している人は呼ばないようにしていたんだけど。何で君は来たんだろうね」
「……」
少し先に目をやると、グラウンドでバドミントンをしている様子が見える。昇降口付近には4、5人が固まって談笑。
何も変わらない。
ここが『あの世』で無ければ、何ら違和感のない……。ただの楽しそうな光景だ。
校舎内に入って暫く歩き続けていると、男はある部屋の前で突然止まった。そしてその部屋の扉を開ける。
「この中にうちの制服がある。自分のサイズの制服を着てみて。今着ている服は右奥にあるカゴの中に入れてね」
「……」
「“死んでいることを理解”している人は、初めてなんだ。“これからどうなるのか、僕も未知”だ」
「……」
「さぁ、白崎蓮斗くん。“この後の再会がどうなるのか、僕は怖いよ”」
「…………」
男は俺に何の言葉も求めず、部屋の中に押し込む。
入ったことを確認すると男は「着替えないと出られないからね」と言って、少し荒めに扉と鍵を閉めた。
「……」
本当に、意味が分からない。
しかし……出られないというのなら、着替えるしかない。
俺は渋々、センスの無い制服に袖を通した。
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