第3話 ー 4
「ヒヨリさん、調子はどう?」
「……ワタル先生」
昼休みの食堂で、おかずを取っている時にワタル先生が話し掛けてきた。今日は魚らしい。【鮭の西京焼き】が美味しそうだ。
「一緒に食べよ」
「はい」
おかずをおぼんに載せてワタル先生と共に席に向かう。ニコニコと何だか楽しそうなワタル先生の様子に、私も何だか笑顔が湧き上がってきた。
「ヒヨリさん、何か変わったことはない?」
「……と、言いますと」
「いや、これと言って深い意味は無いんだけど。話のタネに何か無いかなぁって思って」
「ありませんけど」
首を傾げながら先生の顔を見る。やっぱり何だか楽しそうで……寧ろ違和感。
「……先生に何か変わったことがあるんじゃないですか? ニコニコと“いつも以上に楽しそうで、逆に違和感”ですよ」
「分かる? やっぱり、分かっちゃう?」
ザワザワと騒がしい食堂。
横を通り過ぎる生徒たちがワタル先生に声を掛けているというのに、全く反応を示さない。子供のようなとびきりの笑顔を浮かべている先生は、正面にいる私の左手をそっと掴んで言葉を継いだ。
「いや、実はさ。今朝書類を眺めていて気が付いたんだけどさ。ヒヨリさんが1,000人目の入学者だったんだ! “僕の学校”に1,000人もの生徒がいるなんて、嬉しくて……つい!!」
ブンブンと私の腕を振り続け、喜びの感情を爆発させるワタル先生。いつまでも振り続けられていると、私と先生の横に立った生徒にその動きを阻止される。
「ワタル先生、ヒヨリちゃんの腕が取れるよ!」
「振り過ぎだって!!」
リコちゃんとレイカちゃんだ。
2人はワタル先生の腕を掴んで、私から引き離した。
「そんなに酷くしていないよ!?」
「当事者はみんなそう言うんです!」
「ひどーい」
「酷いのはワタル先生!」
ギャアギャアと騒がしい2人と先生を見ながら、【鮭の西京焼き】を口いっぱいに頬張る。うん、味が濃くて美味しい。
今日もお腹いっぱいお昼ご飯を食べて、昼からも勉強を頑張る。
そんな“いつもと何も変わらない日常”に、妙な安心感を抱いていた。
(side 咲良ひより 終)
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