第3話 ー 2

 ワタル先生に案内され、戻ってきた“ホーム”にある自分の部屋。


 多分、余程疲れていたのだろう。部屋に入るなりベッドに倒れ込んだ私は、制服のまま一瞬で眠りについてしまった。




 そんな眠りの中、夢を見た。

 しかし……夢と呼ぶにはリアルすぎる気もする。


 目の前に居る“見たことの無い男の子”。

 周りには何も無くて、真っ暗なこの世界に……その男の子と私の2人きり。



 “見たことの無い制服を着ている男の子”。なのに彼が締めているそのネクタイには、見覚えもあって……。てかそれ私も持っていたような……。



『ひよちゃん、ひよちゃん』

「……誰」

『もうすぐ俺も“そっち”に行けそうだから』

「……」

『絶対に待っていてね。俺はいつまでもひよちゃんの隣に居るって……約束したんだから……』




 誰か分からない。


 けれど懐かしく感じる……喋り方、声。






 ふいに溢れ出た涙。



 本当に流れたその涙で、私は目が覚めた。






「………」



 涙で濡れた顔をタオルで拭う。

 やけにリアルな夢だった。


 あの男の子が誰か分からないけれど、何だか悲しくて懐かしくて温かくて……色んな感情が渦巻いている。



  コンコンッ



「ヒヨリさん、おはよう! 起きた?」

「あ、ワタル先生」



 扉の外から聞こえてきた声。

 その声に釣られ、扉の鍵を開ける。



 昨日のワタル先生は何だったのか……。まるで何も無かったかのように、ニコニコと微笑んだワタル先生が突っ立っていた。




「凄い、もう準備万端!?  早いね!」

「あ……いや。むしろ昨日のままです」

「え?」

「昨日疲れて、そのまま寝ちゃって」



 目線を逸らし、頬を掻きながら小さく返答する。

 すると、ワタル先生はクシャッとした子供のような笑顔を浮かべて、優しく頭を撫でた。



「“色々あったから”ね。そういうことも、あるある! あ、えっとね。そういや、洗い替えの制服を持って来たんだ! この袋の中に2着入っているから、使ってね」

「あ、ありがとうございます」



 袋の中に入っている、淡い黄色の制服。


 ワタル先生はそれだけを渡すと、片手を挙げながらどこかへ行ってしまった。



「とりあえず、シャワーと着替えかな」



 “始業までまだ時間はある。私は授業に間に合うことを確信してから、身支度を始めた。”

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