悪夢と心の安定剤

第96話

希美は、昔の夢を見ていた。



夕方になると、化粧をし出して綺麗な服に着替える母親。



今になってやっと、母が水商売をしていたのだということが分かるけれど、当時まだ幼かった希美には、母の姿はただただ美しく見えた。



周りの人たちが振り返る程の美貌を持つ母が、希美の自慢だった。



いつかそんな母をもっと美しく見せる服を作りたいと思い、中学生の頃から家庭科部に所属し、洋服作りにいそしんだ。



高校を選ぶ時も、定期的に行われるファッションショーに惹かれて、今の高校に決めた程。



全ては、母に憧れていたため。



もっともっと、母に近付きたかった。



それなのに――



「お母さんもね、そろそろ幸せになりたいの」



母と離れたくないと泣いて頼んだ時に言われたこの一言。



「私は、お母さんさえいてくれれば幸せだと思っていたのに……お母さんは私といて、不幸だったの?」



そう訊ねたかったが、怖くて聞けなかった。



聞かなくても、その答えは分かっていたから。



「……私、生まれてこなきゃ良かった……?」



そんなことない、という答えを期待して、それだけを訊ねた。



母からの答えは、



「……」



何ももらえなかった。



それが肯定を意味していることくらい、中学生の希美には理解出来た。

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