第97話

自暴自棄になっていた希美に近付いてきた賢祐は、最初はとても優しかった。



人から優しくされることに慣れていなかった希美は、すぐに賢祐に惹かれたのだが……



希美の気持ちが賢祐に向いた途端に、彼からの扱いが雑になった。



押さえつけられた手首の痛みや、蹴られた腹部の痛み、そして――



胸と太ももに刻み込むようにして押し付けられた、火の点いた煙草の焼け付くような鋭い痛み。



記憶から消し去りたいこれらの痛みは、希美が夢の世界へと堕ちる度に、何度も何度も繰り返し思い起こされる。



そして、それは必ずと言っていい程、



『希美なんか、産まなきゃ良かった』



実際には言われたことのないはずの母の言葉と共に、希美へと襲いかかってくる。



「いやっ……ごめんなさい……もうやめて……!」



心と胸の火傷痕が痛んで、そう叫んでいた。



「梅ちゃん! 起きて! 梅ちゃん!」



「……!?」



夢から醒めると、目の前には心配そうな顔をした姫花がいた。



「……姫ちゃん……?」



呆然と呟くと、



「ここは安全だから」



姫花にぎゅっと抱き締められた。



段々と頭の中が冴えてきて、辺りを見渡すと、そこは姫花の部屋で。



桐生家に泊めてもらっていたことを思い出した。

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