第94話

そんな頼斗を見て、



「……ふふっ」



それまでずっと緊張していた希美は、噴き出した。



「桐生君って、女の子の扱いに慣れてそうなのに」



「……希美は特別なんだって」



頼斗は真っ赤に染まった顔を希美から隠すように背けた。



「……好きって、こんなに恥ずかしい感情だったのか」



そんな独り言のような頼斗の台詞に、



「……」



希美の胸はキュンと締め付けられる。



「ありがとね、桐生君」



「……ん?」



「私のために怒ってくれて」



この傷を、“痛かったよな”なんて言ってくれたのは、頼斗が初めてだった。



そんな頼斗が、姫花が言うような酷い人間だとは到底思えないから。



「そんなの、当たり前だろ……希美のことが大切なんだから」



照れくさそうに顔を背ける彼に、確実に惹かれ始めてしまっているから。



希美の体に残されたこの火傷の跡も、心に刻み込まれた傷跡でさえも、



頼斗と一緒にいれば、薄くなっていく気がした。



「桐生君……」



希美は、頼斗の肩にそっと寄りかかる。



「!」



驚いて希美を見る頼斗に、



(――好き……)



希美は夢の中で、頼斗に告白していた。

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