第93話

「……すげぇ痛かったよな、これ」



そう言って傷跡を撫でる頼斗の手つきには、いやらしい雰囲気は全くなくて。



まるでその傷を癒そうとしてくれているかのような、優しい触れ方だった。



「……」



「……まだ他にもあるの?」



「ううん……胸と太ももの、この4ヶ所だけ……」



希美がそう答えると、



「4ヶ所もあるのか……」



頼斗は悔しそうにギリッと奥歯を噛み締めた。



怒りという感情を賢祐に対して持ち合わせていなかった希美にとって、頼斗のこの反応は、



「……っ」



とても嬉しくて、涙が出そうになった。



希美のために頼斗が怒ってくれているという事実だけで、もう十分だった。



「あの……桐生君。今はもう痛くないから……」



希美の言葉に、



「?」



頼斗は不思議そうに首を傾げた。



「その……あんまり太ももを撫でられるのは恥ずかしいというか……」



遠慮がちな様子の希美の台詞で、



「!」



頼斗はやっと自分のしていることに気が付いた。



「ご、ごめん!!」



本当に悪気はなかったので、慌てて手を離す。



頼斗の顔は、耳の先まで真っ赤に染まっていた。

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