第90話

頼斗の隣の部屋から、姫花と希美の楽しそうな話し声が聞こえる。



頼斗は、それを自分の部屋で静かに聞いていたが、



「はぁー」



やがて大きな溜息をついた。



いつもなら、姫花の部屋に客人が来ていても気にせずゲームに没頭しているのに。



すぐ隣の部屋にいるのが希美だと思うと、



「……」



ゲームをする気になんか、全くなれなかった。



近くにいるのに、



(……会いたいな……)



そう思ってしまうのは、きっと頼斗が恋をしているから。



でも姫花の言うように、もう夜も更けた遅い時間に、希美を部屋に呼んでいいわけがない。



諦めて、このまま寝るしかないのか。



……というか、寝られるのかな。



と悶々と考えていると、



――コンコン……



部屋の扉が、控えめにノックされた。



「どーぞ」



いつもノックを忘れる姫花が、珍しくノックをしたのかなと思って返事をすると、



「桐生君……」



希美が、扉の隙間から恐る恐る顔を覗かせた。



「!」



ベッドの上で寝そべっていた頼斗は、慌てて体を起こす。



「希美……!」



思わずそう呼んでしまい、



「なんで頼斗が梅ちゃんのこと呼び捨てにしてるのよ!?」



希美の後ろに立っていた姫花が、頼斗を鋭く睨みつけた。



「あ……」



ヤバい、と思ったが、もう既に遅く――



「やっぱり、梅ちゃんのこと狙ってるのね!?」



姫花のその質問に、頼斗は、



「あー……はい」



頭をぽりぽりと掻きながら、素直に頷いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る