第89話

頼斗は希美を連れたまま、自身の暮らしているマンションへと帰宅した。



勢いよくリビングの扉を開けると、



「あ、頼君、おかえ……り?」



母と、



「……頼斗が、女連れ……?」



父と、



「え!? 梅ちゃん!?」



姫花の全員が揃っていた。



「あの……お邪魔してます」



希美が、完全に萎縮しながら挨拶をした。



「父さん、母さん。今日この子うちに泊めていい?」



頼斗は単刀直入に訊ね、



「頼斗! アンタやっぱり梅ちゃんのこと拉致して――」



「ややこしくなるから、姫花はちょっと黙ってて」



掴みかかってきそうな勢いの姫花には、とりあえずそう声をかけた。



そして、両親には簡単に事情を説明する。



「――というわけなんだけど」



「そういうことなら、盗聴器を回収するまでうちにいるといいよ」



父は快く頷き、



「姫ちゃんの親友なら、尚更大歓迎よ」



母もにっこりと微笑んでくれ、



「……鞄運んであげるだけで、なんでこんな時間まで梅ちゃん家にいたの?」



姫花だけが、頼斗を鋭く睨みつけていた。



「まぁまぁ、姫ちゃん。頼君にもやっと春が来たんだから……」



母は何故かニコニコしながら、姫花をなだめた。



「あ、でも寝る時は姫ちゃんの部屋にしてあげてね」



「当たり前よ! 大事な親友を、こんな飢えた狼の部屋で寝かせられないわ」



そんな母と姉の会話を、



「……」



もう反論する気も起きない頼斗は、黙って聞いていた。

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