第87話

日も暮れかけた頃、



「……そろそろ帰らねぇと」



もっと希美と一緒にいたかったが、これ以上は迷惑になるので、頼斗はゆっくりと立ち上がった。



「そっか……」



寂しそうな目で頼斗を見る希美に、頼斗の胸がキュッと締め付けられる。



「明日、また学校でな」



希美の髪を優しく撫でてやると、



「うん」



希美は嬉しそうに微笑んだ。



名残惜しい気持ちを我慢して、希美の部屋を出る。



駅までの道を、来た時の記憶を辿りながら歩いていると、



「あれ? もう帰るの?」



帰ったはずの賢祐が、道の真ん中に立っていた。



「まだのんちゃんのこと抱いてないんだよね?」



「……」



何故そんなことが分かるのか。



頼斗は一瞬そう考えたが――



「!」



嫌な予感がして、もと来た道を振り返った。



(――まさか……)



「胸の傷見せられて、ヤる気なくなっちゃった?」



ヘラヘラと笑うその声で、頼斗の中の疑惑が確信へと変わる。



「まぁ、他の男が付けた、一生消えない傷なんて見たら萎えるよねぇ?」



賢祐のその言葉に、頼斗は殴ってやりたい気持ちになったが、



「……っ」



それをぐっと堪え、頼斗は来た道を走って引き返した。



走りながら、スマホを操作して希美に電話をかける。

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