第86話

希美の一言にキュンとした頼斗は、



「……やっぱり、俺ら付き合わない?」



希美にぐいっと迫った。



「……待ってくれるんじゃなかったの?」



怪訝そうな顔をする希美に、



「……ちょっと自信ないかも」



頼斗はまたシュンと項垂れた。



「希美のことになると多分、俺、余裕がなくなる気がする」



「……」



「無理に襲ったりはしないけど……俺を煽るようなことは絶対に言わないでくれよ」



頼斗の真剣な表情に、



「……っ」



思わず“好き”と言ってしまいそうになって、希美は慌てて俯いた。



「希美……好きだ」



希美の考えていることが伝わってしまったのか、頼斗がそんなことを言い出して、



「……」



希美は俯いたまま黙り込んだ。



まだ賢祐と別れていない希美に、頼斗を好きだと言える資格はないから。



頼斗もそれを分かっているのか、希美に無理に返事を求めたりはしない。



その代わりに、希美を優しく抱き寄せる。



それを拒絶しないのが、希美なりの返事のつもりだった。



「……いつか、希美の口から“好き”って聞かせて欲しいな」



ぽつりと零れた頼斗の声に、



「……うん」



希美は小さく頷いた。

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