第85話

結局、希美が新しいコーヒーを淹れ直してくれたので、頼斗は再びチャレンジしてみたのだが――



「……ブラックって何か胃が焼けそう……」



砂糖もミルクも入れずに、ブラックのまま飲んでみた頼斗は、その整った顔を思いっ切り歪めた。



「……無理しなくていいのに」



頼斗を呆れたような眼差しで見つめる希美は、砂糖とミルクを控えめにした苦めのコーヒーを美味しそうに飲んでいた。



「……今度から紅茶も用意しておこうかな」



そんな希美の独り言に、



「!」



頼斗は大きく反応した。



「それって、俺のため?」



嬉しそうな頼斗に、素直に頷きたくなくて、



「……私が飲みたくなっただけ」



希美はプイッと顔を背けた。



「また遊びに来ていいよって意味かと思ったのに」



頼斗が、露骨にしょんぼりと項垂れた。



「……うん、また来てくれてもいいよ」



希美のそんな台詞に、



「希美って、ツンデレ?」



顔を上げた頼斗はニヤリと笑う。



「……やっぱりもう二度と来ないで」



希美に冷たい眼差しで睨まれ、



「えぇ!? 嘘です冗談ですごめんなさい!!」



頼斗は慌てて両手を合わせた。



「また希美と、こうやって2人きりで過ごしたい」



真剣な眼差しで懇願する頼斗に、



「……私も、桐生君と一緒だと楽しいから」



希美も本音をぽつりと零した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る