第83話

頼斗はふと希美の体を離し、その顔からそっと眼鏡を奪い取った。



「桐生君……?」



「……」



希美の素顔をまじまじと見つめた頼斗は、



「やっぱり眼鏡ない方がめちゃくちゃ可愛いじゃん」



ふわりと柔らかく笑った。



「えっ……」



戸惑う希美に、



「ずっとコンタクトにしたらいいのに」



頼斗はそう提案したが、



「……私、目は全然悪くないから」



そんな希美の一言に、



「えぇ!?」



驚いて目を見開いた。



「じゃあ、なんで眼鏡……?」



「……私、高校入学と同時に苗字が変わったから」



希美は気まずそうに頼斗から目を逸らす。



「中学までの知り合いに会っても、眼鏡かけてたらパッと見ではバレないかなって」



そんな深刻な事情だったとは思ってもみなかった頼斗は、



「……ごめん」



希美にそっと眼鏡を返した。



「ううん……可愛いって言ってくれて、嬉しかったから」



頼斗から眼鏡を受け取った希美は、それをテーブルの上に静かに置く。



「……明日から、眼鏡なしで学校行ってみようかな」



そう言ってはにかむ希美を見た頼斗は、



「……やっぱり学校には眼鏡かけて行って」



何故だか発言を撤回した。

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