第82話

「……これは許して欲しい」



頼斗の控えめなお願いに、



「そんな勝手な……」



希美は呆れた。



「希美は、嫌か? 俺に抱き締められるの」



そんな悲しそうな声で訊ねるなんて、



「ず、ずるい……」



思わず抗議をしたけれど、



「ずるいって何が?」



頼斗は質問を重ねながら、希美を更に強く抱き締めた。



「……私が嫌がってないって分かってるクセに」



不服そうに答えると、



「分かってたけど、ちゃんと希美の口から聞きたかったから」



頼斗は満足げに微笑んだ。



「俺のこと、好き?」



「……」



頼斗のペースに乗せられたくなくて、希美は黙り込む。



無視をされても気にしない頼斗は、



「俺は、希美のこと大好きだよ」



希美に甘い笑顔を向けた。



「!」



途端に顔を真っ赤に染める希美に、



「……可愛いなぁ」



頼斗は嬉しそうに微笑んだ。



「桐生君のそういうところが、チャラいって言ってるの!」



希美は慌てて頼斗を睨みつけたが、



「……俺、他の子に可愛いなんて言ったこと一度もねぇよ?」



頼斗はきょとんとした後、



「希美が初めて」



また甘く優しい笑顔を希美へと向けるので、



「……!」



希美の顔は更に真っ赤に染まった。



そして、それは、



「マジ可愛い……」



頼斗を喜ばせてしまうだけだった。

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