第81話
「でもね、今はこんな風になっちゃったけど……精神的に凄く支えてもらった思い出があるから」
また希美の瞳が潤み出す。
「だから、私の方からはケンちゃんに別れを切り出せないの」
「……」
「別れたとしても……こんな傷だらけの体じゃ、桐生君と付き合うことも出来な――」
「そんなんじゃ納得出来ない」
頼斗は希美の言葉を遮ると、希美の体をぎゅっと強く抱き締めた。
「桐生君……!?」
希美は驚いて頼斗から離れようとするが、びくともしない。
「は、離して!」
「嫌だ」
頼斗は希美を抱き締める腕に、更に力を込める。
「俺のことが好きじゃないとかなら納得出来るけど、そうじゃないんだよな?」
「……」
希美は何も言えずに、黙った。
「希美」
頼斗の低く落ち着いた声に、その呼び方に、
「!」
希美はドキッとしてしまう。
「俺はもう、希美以外の女なんて考えられないから」
「……」
「希美の気持ちの整理がつくまで、ずっと待ってるから」
「……」
頼斗の真っ直ぐな眼差しに、希美は惹き込まれて目が離せない。
「だから俺とのことも、もう少しよく考えて欲しい」
「え……」
「希美からいい答えをもらえるまで、絶対に手は出さないから」
「……今の、この状況は?」
既に抱き締められているのに、この宣言は説得力がない。
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