第80話

それまで優しかった賢祐との行為が、突然乱暴なものへと変わってしまった。



DVと呼ぶのかサディスティックと呼ぶのかは分からないが、希美の痛がることをわざとするようになっていった。



顔が腫れるほど殴られることはなかったが、それでも賢祐に逆らうと、腹部を殴られることもよくあった。



別れを切り出そうとした時には、服で隠せる場所に、煙草の火を押し付けられたこともあった。



「……」



絶句する頼斗の前で、



「だから、私、他の人の前では脱げないの」



希美がそう言いながら、制服のリボンを解き、ブラウスのボタンを外し始めた。



「なっ、何を……!?」



慌てて顔を背ける頼斗に、



「大丈夫だから、見て」



希美は自分の胸元を軽くはだけさせて見せる。



「……」



ちらりと横目で見る頼斗の目に、



「!」



痛々しい根性焼きの痕が映った。



左胸の心臓の位置より少し上の部分、丁度下着にギリギリ隠されない場所に、小さな丸い火傷の痕があった。



「それ……」



「こんな場所に根性焼きの痕がある女なんて、誰も相手にしなくなるだろうってケンちゃんが」



「……」



「ここ以外にも、太ももとかにも残ってて……」



希美は、またブラウスのボタンを留めてリボンを結び直した。



「だから、私、水着にもなれなくて……今年から水泳の授業どうしようかなって悩んでるところ」



そう言って苦笑する希美の笑顔が、



「……っ」



頼斗には一番痛々しく見えた。

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