第73話

「……」



黙り込んだ頼斗に、



「とりあえず俺はもう帰るから、後はのんちゃんと好きにしてていーよ」



賢祐はへらっと笑うと、部屋を出ていった。



しばらくしてから、



「梅本」



頼斗がいつもよりも低い声で希美を呼び、



「!」



希美はびくっと体を強ばらせた。



「……あんなヤツが、俺よりも大事なの?」



唯には急ぐなと警告されていたのに、今の頼斗は我慢出来そうになかった。



「……」



黙ったまま俯く希美に、



「俺なら、絶対に梅本だけを大事にするのに……!」



両肩を掴んで迫ってしまっていた。



「桐生君……痛い……」



左肩の痛みに顔を顰める希美を見て、



「あっ……ごめん……」



頼斗は慌てて希美から離れた。



「……ケンちゃんは、私が一番辛い時に一緒にいてくれた人だから」



賢祐から離れられない理由を、希美は頼斗へと告げた。



「……でも、アイツは梅本のこと全然大事にしてねぇじゃねぇか」



「それは……私の片想いだから」



「……っ!」



あんなに酷い男でも、希美は賢祐を好いているのだと思い知った頼斗は、また奥歯をギリッと噛み締めた。

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