第72話

「あれ? その反応は……もしかして、まだ抱いてない?」



「……」



頼斗には、相手の男が何を言っているのか理解出来なかった。



「じゃあ、今からヤッてみる? その間に俺、どっか行っとくから」



まるでDVDでも貸し出そうとするかのようなその言い方に、



「ふざけんなよ!」



腹を立てた頼斗が、賢祐の胸倉に掴みかかった。



「お前、梅本のこと何だと思って……!」



「何って、彼女だけど?」



「……は?」



その言い方ですらも不快で、頼斗は眉間に皺を寄せた。



「桐生君、お願い。ケンちゃんを離して」



頼斗の後ろでは、希美が今にも泣き出しそうな顔をしている。



「私は気にしてないから、怒らないで」



「……」



怒らないでと言われても、この怒りのやり場をどうしろというのか。



「……大事な彼女を他の男に勧めるなんて、どうかしてるぞ」



頼斗は賢祐を突き放すようにして手を離したものの、それでも鋭く睨みつける。



「俺には別で婚約者がいるから、それでのんちゃんが寂しい思いをするくらいなら、他に彼氏がいてもいいよっていう寛大な気遣いなんだけど」



そんなことを飄々ひょうひょうと言ってのけた賢祐は、



「……狂ってる……」



正直言って、関わりたくないと思った。

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