第68話

「なんなら、私の部屋でお茶飲んでいってくれてもいいよ」



頼斗に荷物持ちをさせておいて、お礼も何もせずに帰らせるなんてとんでもない、とも思うから。



「いいの?」



嬉しそうな顔をする頼斗に、



「……」



唯は心配そうな溜息をつき、



「梅ちゃんに変なことしたら、アンタの持ってるゲームとか漫画とか全部売り飛ばすからね」



姫花は頼斗を思い切り睨みつけて牽制した。



「さっきから、姫花は俺を何だと思ってんだよ」



頼斗は姫花を鬱陶しそうに睨み返した。



「とんでもないクズ」



「あ!?」



今すぐにでも殴り合いの喧嘩を始めそうな空気の双子に、



「桐生君、そろそろ帰ろう」



希美は慌てて声をかけ、



「姫花。帰りにドーナツ奢ってやるから、ちょっと落ち着け」



唯も慌てて姫花を制した。



「どうしたんだ? 頼斗に喧嘩売るなんて、姫花らしくないぞ」



頼斗と希美が去っていくのを見届けた後で、唯が姫花を問いただした。



「……頼斗のヤツ、絶対梅ちゃんのこと狙ってる気がする」



「……」



双子の勘、というやつだろうか。



その鋭い見解に、唯は黙った。



「頼斗の部屋から、ゲームする音が全く聞こえなくなったの。前は煩くて迷惑だったのに」



「……」



「ゲーム売り飛ばすって言われても、そのことに対しては怒らなかったし……変なのよ、今の頼斗は」



頼斗の気持ちを知っている唯は、



「……」



やはり、何も言えなかった。

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