第66話

希美は俯いていて、その表情ははっきりとは見えなかったが、



「……」



頬が赤く染まっているのが、ちらりと見えた。



頼斗と一緒にいる女の子が顔を真っ赤にしているところなど、とっくに見慣れている頼斗ではあったが、



(……可愛い)



そう思ったのは、希美が初めてだった。



この可愛い希美を、他の誰にも見せたくなくて、



「行くぞ」



頼斗は希美の鞄をさっと持ち上げた。



「あっ……!」



希美は慌てて頼斗を追いかける。



「自分で持つよ!」



「無理するなって」



言いながら、廊下に出て――



「「あ」」



姫花と唯に、出くわした。



「あ、姫ちゃん!」



途端に嬉しそうな声を出す希美。



どれだけ姫花のことが好きなんだ、と頼斗は少しだけ姫花を妬んだ。



「……なんで頼斗が梅ちゃんの鞄盗んでるの?」



頼斗を鋭く睨みつける姫花に、



「人聞きの悪い言い方するなよ!」



頼斗も鋭く睨み返した。



バチバチと火花を散らす双子に、



「姫ちゃん、誤解なの!」



希美はあたふたし出した。



「私が肩痛めちゃったから、桐生君が気遣ってくれて……」



「そうなの?」



姫花が希美に視線を戻した。



「てっきり、新しいゲーム買うお金を稼ごうとしてるのかと……」



姫花の言葉に、



「どんなクズ野郎なんだよ、俺は」



頼斗は呆れて頭を抱えた。

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