第65話

そして、ついにその時はやって来た。



帰りのHRが終了して、担任が教室を出ていくのを見送ってから、



「梅本」



頼斗は右隣の席の希美を呼んだ。



「帰ろうか」



ニッと嬉しそうに笑った頼斗は、希美に向かって右手を差し出した。



「?」



希美はその手を、小首を傾げながら眺めていたが……



「あ!」



ふと何かを思い出し、鞄の中をがさごそと漁って……



「はい、どーぞ」



頼斗の手のひらに、個包装のチョコレート菓子を1つ、載せた。



「……え?」



頼斗は手のひらのお菓子を不思議そうに眺める。



「くれるの?」



「あれ? 手を出してきたから、お腹空いてるのかと思ったんだけど」



「お前、俺を捨て猫か何かだと思ってるだろ」



頼斗はがっくりと項垂れた。



「まぁ、これはありがたくもらっとくけど……俺は鞄持つぞって意味で手出したんだよ」



もう一度、手を差し出す頼斗。



「いいよ、別に」



人気者な頼斗に荷物を持たせて歩いていたら、それこそ学校中の女子から睨まれてしまう。



「左肩、まだ痛いんだろ?」



「!」



「庇ってるの、見えたから」



頼斗はそう言いながら、



(……今の、ずっと梅本のこと見てたって言ってるのと同じだよな……?)



そんな事実に気が付き、



(……キモいと思われたかな……)



恐る恐る、希美の表情を窺った。

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