第64話

その真っ直ぐな瞳から、目が離せなくなる。



「ちょっと桐生君、聞いてるの〜?」



頼斗を囲んでいる女子たちが、よそ見をしていた頼斗に不機嫌そうに声をかけた。



「!」



ハッと我に返った頼斗が女子たちの方を向き、希美から視線が外された。



「……」



少し寂しい気持ちになりながら、希美がまたスマホに視線を戻すと――



――ポコンッ



『今日、約束だからな!』



また頼斗から一方的なメッセージが送られてきた。



(もう……自己中なんだから)



そう思いながらも、



『いいよ』



希美はそんな返事を送っていた。



女の子をドキドキさせるのが上手い彼には、きっとそんなつもりはないのだろうと思うことにした。



それが彼の性分なら、そうだと割り切って友達として付き合っていけばいいだけだ。



何より彼は、希美が一番大切に思っている親友・姫花の双子の弟だから、無下に扱いたくはなかった。



ただ、それだけだ。



それ以外の感情を、彼に持ってはいけない。



平穏な高校生活を送る上でも、賢祐との仲を続けていく上でも、それは鉄則だ。



そこまで考えた時、



「あれ? 梅ちゃん? なんで壁際に?」



登校してきたばかりの姫花が、希美に声をかけてきた。



「姫ちゃん! おはよー! うわーん、今日も可愛いよぉ!!」



姫花を見た瞬間、希美は安堵からか姫花に思いっ切り抱きついた。



その様子を、



「……」



頼斗はまた女子の隙間から、寂しげな表情で眺めていた。

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