第57話

「真剣に悩んでるのに、気持ち悪いとか言うなよ」



頼斗は思わずムッとした。



そんな頼斗の表情を見て、



「お前からこんな相談をされる日が来るとは思ってなかったな」



唯は戸惑ったように頭を搔く。



「俺だって、いつか誰かを本気で好きになれたらいいなーくらいにしか思ってなかったよ」



本当にそう思っていたのに。



「まさか俺が、誰かに“愛されたい”とか思うなんて、考えてもみなかった……」



ぽつりと零れた頼斗の本音に、



「……」



唯は、手にしていたシャーペンをノートの上にポロリと落としてしまった。



「頼斗……」



「ん?」



「やっぱりお前、梅本さんに惚れてるよな?」



唯が真剣な眼差しで問いかけると、



「……」



頼斗の顔が、また真っ赤に染まる。



「……“愛されたい”って思うのは、好きだからってことなのか……?」



「それ以外に何があるんだよ」



唯は呆れて、ノートの上に転がっているシャーペンを握り直した。



「今の頼斗は、梅本さんに絶賛片想い中だろ、馬鹿」



「……」



黙り込んだ頼斗の顔は、耳の先まで真っ赤に染まっていて、



「……面白いな」



その初めて見る頼斗の顔に、唯はニヤリと笑った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る