第56話

そんな頼斗を、唯はまたちらりと見る。



「頼斗ならそんなに悩まなくても、ちょっと優しい言葉をかけて甘い笑顔でも見せれば、誰でもホイホイついてくるだろ?」



実際、頼斗の笑顔に弱い女子はとても多い。



この学校内では、頼斗になびかない女子を数えた方が早いくらいだ。



つまり――姫花と希美以外なら、誰でも簡単に落とせるだろう。



「誰でもいいってわけじゃねぇんだって……」



唯の台詞に、頼斗はそう答えて頭を抱えた。



「……まさか、お前……姫花のことを狙ってるんじゃ……」



唯は大袈裟なまでに驚いた顔をし、



「双子の姉が相手とか、死んでも嫌だぞ」



頼斗は本当に嫌そうに顔をしかめた。



「冗談だよ」



唯も、スッと真顔に戻した。



「てことは……梅本さん?」



唯の質問に、



「……っ!」



頼斗は瞬時に顔を真っ赤に染めた。



軽い冗談のつもりで言った唯は、



「え? マジ? 梅本さん!?」



初めて見る頼斗の表情に、驚いて目を見開いた。



「梅本さんのことが好きなのか……」



繰り返される希美の名前に、



「ちょ、唯……もういいから」



頼斗は真っ赤な顔を手で隠しながら、それ以上言うなと牽制する。



「好きっていうかさ……」



頼斗の中では、これが好きという気持ちなのかがまだよく分かっていない。



「……俺のこと、好きになって欲しいなって思って」



ぽつりと小声で呟かれたその声に、



「……急に可愛いこと言うなよ、気持ち悪い」



唯はドン引きした表情を見せた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る