第51話

「俺なら、梅本にそんな顔はさせない」



頼斗の真剣なその声に、希美の心は揺らぎそうになる。



でも――



「彼が今いる所、私の家だから」



そこに行くなと言われたら、希美の帰る場所がなくなってしまう。



それに第一、



「桐生君が色んな女の子を泣かせてるの、今までに何度も見たことあるけど……それでも、そんな約束守れるの?」



頼斗のことを、そこまで信用していない。



「……」



言葉をなくした頼斗に、



「私に、これ以上期待させるようなことを言わないで」



希美が冷たく言い放つと、すっかり力のなくなった頼斗の腕から簡単に抜け出せた。



「じゃあ……お疲れ様でした」



自分の鞄を掴んだ希美は、そのまま教室を後にした。



1人残された頼斗は、



「……くそっ……!」



傍にあった誰かの机を、右手の拳で思い切り殴った。



ズキズキと痛む右手を抱え、



「なんで……」



自分の今までの行いを、激しく悔やんだ。



やっと気になる女の子を見つけたのに。



誰かを好きになることさえ出来れば、自分なら絶対に上手くいくと高を括っていた。



それが、実際は信用すら得られずに相手にもされないなんて。



全て自分の日頃の行いのせいだと分かっているだけに、



「なんでなんだよ……」



何故、好きでもない子たちと付き合ってきたのか、過去の自分が理解出来なくなっていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る