第50話

「まだ学校に――」



『部活辞めたんじゃないの?』



スマホから聞こえてくる声は、大切な彼女に向かって話しているとは思えない程に冷たい。



「学級委員長の会議があって……」



『んなの、断ればいいじゃん』



「……ごめん……」



2人のやり取りを黙ったまま聞いていた頼斗は、



「……っ」



ギリッと奥歯を噛み締めた。



『とにかく、今すぐ帰ってくること。俺、もう部屋で待ってるんだから』



「分かった……」



通話を終えた希美は、酷く悲しそうな顔をしていて――



「梅本」



頼斗は希美を呼ぶと、



「!?」



希美の体を後ろからぎゅっと抱き締めた。



「き、桐生君!?」



希美は突然のことに驚いてパニックになる。



慌てて頼斗の腕の中から逃げ出そうともがく希美を、頼斗は更に強く抱きすくめた。



「行くな」



ぽつりと聞こえた頼斗の声に、



「……え……?」



希美は抵抗することをやめた。



「お前にそんな悲しい顔をさせるようなヤツの所に、行って欲しくない」



頼斗の言葉に、



(私、そんなに酷い顔してたのかな……)



希美は、ぼんやりとそんなことを考えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る