第46話

希美は、頼斗が何を考えているのか理解出来ずにしばらく黙ってしまったが、



「……桐生君、今は誰とも付き合う気はないんじゃ……」



努めて冷静に訊ねてみた。



「そのつもりだったんだけど、気が変わった」



頼斗の目が、真っ直ぐに希美の目を覗き込む。



「俺、梅本のことが気になってるのかもしれない」



そんな曖昧あいまいな台詞を、何故か堂々と告げた頼斗に、



「……!?」



希美は驚いて目を見開いた。



「何……それ……?」



「誰かを好きになったことなんてないから、俺にもよく分かんねぇんだけど……」



希美から手を離した頼斗が、気まずそうに自分の頬をぽりぽりと搔く。



「梅本のこと、もっとよく知りたいなって」



「……」



よく分からないと言いながら堂々とそんなことを言えてしまう頼斗に、希美は呆れて言葉を失った。



「……ダメか?」



別に“好き”と言われたわけではないので、断ったところでそんなに大きなダメージはお互いになさそうだと思うのだが――



「……友達としてじゃ、ダメかな?」



何故か、はっきりノーとは言えなかった。



断ったわけではないのに、



「!」



頼斗は頼斗で、何故か深く傷付いた表情を見せた。



その顔を見た希美まで、何故かズキリと胸が痛む。



「……友達で留まるつもりは、俺にはねぇよ」



再び頼斗に真っ直ぐに見つめられ、



「……」



希美は思わず頼斗から目を逸らした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る