第44話

「……で、9月は体育祭があるから――」



会議が終わり、自分の教室に戻った頼斗は、希美にメモを見せてもらいながら、唯がしていたはずの説明を希美から受けていた。



「流れとしてはこんな感じらしいよ」



そう締めくくった希美に、



「分かった、ありがとう」



頼斗は笑顔を向けた。



だが、希美は首を横に振る。



「お礼を言うのは、私の方だよ」



「え?」



「学級委員、一緒にやるって言ってくれて。桐生君も、本当は嫌だったはずなのに」



希美のそんな言葉に、



「……」



頼斗は黙ったまま希美の目を見つめた。



「桐生君って、本当は凄く優しいんだね」



「……ん? 本当はって?」



今までどう思われていたのか気になって、そう訊ねていた。



「チャラいだけの人で、関わりたくないなって思ってて……ごめんね」



「……」



チャラいとはよく言われるのでそれは構わないが、



(……俺と関わりたくなかったのか)



希美のその言葉は、かなりショックだった。



女の子にそんなことを言われたのは、生まれて初めてだった。



「……じゃあ、俺もう梅本に話しかけない方がいい?」



頼斗の不機嫌そうな低い声に、



「あっ……あの、今はもうそんなこと思ってないから!」



希美は慌てて首を横に振った。



「……良かった……」



頼斗はぼそりと呟いたが、



「え?」



希美には聞き取れなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る