第23話

それを見た頼斗は、



「まぁ、梅本が元気そうなら良かった」



なんとなしにそう言ってしまい、



「……っ」



途端、希美の瞳が一瞬で潤んだ。



「へっ……?」



希美の表情の変化に驚いた頼斗は、その顔を凝視した。



「……彼氏と、何かあったのか?」



頼斗は座っている椅子ごと希美の方へ寄せて近付くと、周りに聞こえないよう小声で問いかけた。



「桐生君」



希美に呼ばれ、



「ん?」



頼斗は優しげな眼差しを希美へと向けた。



「……距離が近い」



短く告げられたその言葉に、



「……」



頼斗は一瞬、何を言われたのか理解出来なかった。



「パーソナルスペースが狭いタイプなの?」



今度は少し長めの言葉で言われたが、内容が頭に入ってこない。



「え……」



「もう少し離れてくれる?」



言葉を変えに変えた希美の目はもう潤んでおらず、完全な真顔になっていた。



「あ、ごめん……」



女の子から、近いだの離れてくれだのを生まれて初めて言われた頼斗は、ショックを受けた。



項垂れながら、椅子に座ったままの姿勢で元の位置まで下がる。

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