第8話

「とりあえず、今は5組のみさとちゃんと付き合ってるから」



告白されるまで、顔すらよく知らなかった女子生徒の名前を上げた。



「……桐生君って、誰かを本気で好きになったことってあるの?」



双子のやり取りを黙って聞いていた希美が、恐る恐る頼斗の顔を覗き込んだ。



眼鏡の奥のアーモンド型の目に真っ直ぐに見据えられて、



「……っ」



一瞬だけドキッした気がするのは、きっと鋭い質問をされたせいに違いない。



「俺は今、その本気で惚れさせてくれる女の子募集中なの」



頼斗は人当たりのいい笑顔でニコッと笑ったが、



「台詞もそのほっぺも痛々しいから、あんまり笑わないでね」



希美にはその笑顔が通用しなかった。



……手強い。



別に姫花の友達の気を引きたいなどとは思わないが、ここまで頼斗に興味のなさそうな女子は本当に珍しい。



「そういう梅本は、いるの? 本気で惚れてる相手」



赤ぶち眼鏡に黒いセミロングヘアの希美は、はっきり言ってかなり地味系の女子だ。



偏見かもしれないが、恋愛とはあまり縁がなさそうに見える。



「いるよ」



短く返された言葉に、



「……へぇ」



一瞬だけ、頼斗は動揺した。



「梅ちゃんのところは、結構長いんだよね?」



姫花は思い出したように希美へと確認した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る