第14話

「こちらのエメラルドはいかがでしょうか?控えめなデザインですので、装飾品をあまり好まない王太子妃もきっと喜ばれるのではないでしょうか?」


行商がイルナへの贈り物を運んできたため執務を一時中断して並べられた品々を見た。


「いや、今は装飾品をつける気分ではないだろう。それより頼んでいた本はどうだ?」


「はっ。こちらに」


それはイルナが幼い頃読んでいた本の初版本で今では目玉が飛び出るほどの価値がある。


「ではそれを。それからそのガラスでできた花束、それをいただこう」


「かしこまりました。では贈り物用に包ませてからお届けさせましょう」


「ああ。それは必要ない。今いただこうか。このあとイルナに会いに行くし、イルナは過度な装飾は好まない」


「承知しました。ではこれを」


俺は行商から本当花束を受け取るとウキウキしながらイルナの待つ自室へと帰ってきた。「イルナ、怪我の具合はどうだ?」


ティナの付けた傷は深く、なかなか傷は癒えなかった。

その痛みはティナのことを思い出すようで夜よくうなされていて可哀想で抱きしめてやると安心して眠るのだった。


「今日はいいものを持ってきた。

ほら、ガラスの花束。綺麗だろう?それにこれ、お前の好きな初版本」


「ええ!もう現存してないと言われてた物が!?嬉しいです!ディオス様。ありがとうございます」


イルナは本当と花束を抱きしめて喜んでくれた。


「メルル、この花束を花瓶に」


「かしこまりました」


「ところで毎日来てくださいますが執務は大丈夫なのですか?」


「ああ。お前の顔を見た方がやる気が出るからな」


そ言うとイルナは頬を染める。

(可愛いな。これだけで頬を染めて。俺の愛情が伝わっているのだろうな)

 イルナは本当は痛みでのたうちまわっていてもおかしくないと医者が言うがいつも毅然と振る舞っている。その胆力こそ王妃に相応しい。幼い頃より妃教育も努力して続けていたおかげで妃としても申し分ない。


最近現王、父上に打診されているのだ。王位を譲ってそろそろゆっくりしたいと。


そのためにもイルナには早く元気になって欲しいと。

父上もイルナは気に入っていて、数日に1度は訪れて楽しく談笑している。イルナの知識量はかなりのものなので、賢王と名高い父上の話も即座に理解してくれるのだ。


「イルナとの孫もだきたいしな。どうだ?今度の新年会で戴冠式を執り行うのは」


「それは…ありがたい話ではありますが、父上はまだご健在ですのに」


「はは。私はやりたいことはもうやり尽くしたのだよ。次はお前が国を導く番だ」


「父上…」


そうして俺は新年会で王位につくことが決まった。

****

体が痛む。

内側から熱を持つような痛みが繰り返し襲ってきていた。

だがそれを表に出すことは許されない。

なぜなら私は王太子の婚約者だから。


陛下がよく見舞いにきてくださる時には

終始微笑みをわすれないようにしている。

陛下は本当にするどいお方なので、私の我慢も見抜いていらっしゃる。

ある時、談笑している時に激痛が襲ってきてそれをなんとか我慢していたのだが、陛下は静かに言った,。


「横になって少し眠りなさい。其方の素質を試すために何度も通ってすまなかったね。そなたならばディオスの妃としてふさわしい。むしろ勿体無いくらいだ。

どうかディオスを支えてやってくれ」


そうおっしゃられた。

(あの陛下に認めていただけた…)

私は嬉しさのあまり痛みも忘れてこうべを垂れたのだった

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